最強の姉
「頑張ってー!お姉ちゃーん!」
アンリとケンはリサが出場する格闘技の大会の観戦に来ていた。ケンが言う。
「国を売るのと格闘技観戦に何の関係があるんだ?」
「私もわかんないけどいつの時代もスポーツのスターはマスコミにも出てるわけでしょ?ならお姉ちゃんがマスコミに何言うかも私たちが裏で決められるってことでしょ。」
試合は一方的だった。リサは圧倒的に体格の大きな相手に馬乗りになって顔面を殴り続けている。審判が試合を止めた。どうやらリサはこの試合に勝ったことで体重別の階級5つを制覇したらしい。
「お前の姉ちゃん有名人なのな。」
「いや、女子がこんな野蛮なことしていいの?」
ケンとアンリは圧倒されていた。試合後リサがマイクを持った。
「48kg級のアタシが70kg級の王者になれたことを非常に誇りに思います。」
「今後はどういった方向に進むつもりですか?」
インタビュアーが聞く。
「70kg以下ならどんなルールでもいいので挑戦してきてください。どこまで防衛できるかわかりませんが、ギャラもそんなに望まないし、とにかく戦い続けたいです。」
リサの試合はテレビのゴールデンタイムで流れることもあり、女子アスリートとしては抜群の知名度があった。
「これよ!」
アンリが叫んだ。
「お姉ちゃんにスターになってもらって、いや、もうある程度スターなんでしょ?ならそれを観てる人達に何らかの影響を与えられる。」
「格闘家が世の中に影響与えられるのか?」
ケンがつっこむ。
「アタシも詳しくないけど昔アリっていうボクサーが反戦運動して成功したらしいわよ。」
「らしいばっかだなお前。」
「だから詳しくないんだってば。そこら辺のことは今夜お姉ちゃんに聞こう。」
ーーー夜がふけた。
「アリみたいに政治的発言しろってか?」
リサが笑った。
「そうねえ…、女子の格闘技の最高峰を目指していけばなんとかなるかもね。」
「最高峰ってどの種目?」
アンリとケンがリサに尋ねる。
「ズバリ、柔道。女子の競技人口の多さとオリンピックに採用された歴史が長い。」
「お姉ちゃんオリンピックの柔道で金メダルとってマスコミに発言できる?」
「正直アタシは柔道経験はない。だけど総合格闘技という打撃も投げ技も関節技も許された競技では無敗だ。柔道に専念すると言ったらマスコミも注目するかもしれない。」
「どっちなの?金メダル取れるの?取れないの?」
「ぶっちゃけ絶対取れないと思う。あいつら着衣だとバケモノだ。服掴んでいいルールなら絶対勝てない。」
「ええー、そんなぁ。」
「だけど、次に有名なのが女子レスリングだ。これならアタシがやってる総合格闘技とかなり相性がいい。48kgの階級なら付け焼き刃でもオリンピック狙えるかもしれない。」
アンリの目が輝いた。
「スパイってね、何も、重要機密書類を探し出すことが仕事なわけじゃないんだって。そこらの週刊誌やらテレビなんかから得られる情報から本質を類推することが仕事なんだよ。」
「アタシがテレビで発言していくことで株価なんかを操作できるってわけ?」
「お姉ちゃんアスリートだけあって勘がいいね。日本国民を徐々に洗脳していく感じね。」
「まるで宗教だな。」
「知らないの?パパは教祖よ。」
手紙でアンリのボディガードを頼まれただけのリサは酷く驚いて聞いた。
「アンリ、お前何をしようとしてるの?」
「まずはね、羨ましがらせるのよ。アタシ達を真似したくなるように。そこまで持っていけばいい。あとはその時考える。」
リサは呟いた。
「アタシが最強目指してる間に民衆を支配しようとしてた妹がいたとはね。」