奇妙な団欒
ケンとアンリ、リサの3人は、ゲームセンターでダーツをしていた。リサは一応顔が割れないようにサングラスとマスクをしている。
「日本人から労働意欲を奪って日本の価値を下げてそれを利用して市場で儲ける?なんだかややこしい話だね。」
リサはダーツの腕の方も確かなようで、2人に大差をつけて勝ちながらそう呟いた。
「お姉ちゃんは愛国者?」
「へ?」
「だって自衛隊入ったり今もオリンピックの日本代表目指してるんだし、日本が没落するのは嫌?」
「まぁ、簡単には言えないけど。孤児だったアタシが人並み以上の生活をする為には戦い続けるしかなかっただけだし。自衛隊入ってたのも国を守るためってより自分の守り方を身につけるためだった。」
ケンが口を挟む。
「リサさん、こいつはね、金に目が眩んでるんですよ。他国のスパイだった親父の真似して大金を得たいだけなんですよ。こんな奴の言う通りにしてたらリサさんの人生がメチャクチャになりますよ。」
「ケンくん、だっけ?あんたアンリの恋人?」
「えっ?いや、ただの幼馴染です。」
ケンは躊躇いながら言った。
「あんたねー!女子高生に愛の告白されて幼馴染のまんまでいようってわけ!?相変わらずウジウジしたやつ!」
アンリが大声をだす。
「ああ、中々いい関係なのね。」
リサは2人の初々しさを微笑ましく見ている。
「家族がいたんだね。アタシ達にも。」
リサが住むマンションはリビングだけで20畳はありそうだ。
「お姉ちゃん結構稼いでるんだね。」
「最近は女子総合格闘技バブル期でさ、大会に勝つたびに大金が貰える。しかもアタシ中々可愛いからモデルみたいに雑誌の表紙にも載るし、あんたら2人がアタシの事知らないのが逆に新鮮でいいわ。」
「ルックスがいいところは私もそうだから気持ちがわかるわ。好みの男だけでいいってのに、どうでもいい男まで群がってきてたまに面倒くさいよね。」
「アンリはアタシと違って性格が悪いな。」
「俺もそう思います。」
ケンがそう言うとアンリは口を尖らせた。
「妹のためなら世界一有名なアスリートになってやってもいいよ。一人ぼっちの孤児で喧嘩ばっかりして、自衛隊入って、訓練して、もっと金になる事は出来ないかと思ってプロ格闘技始めて、勝ち続けて、敵がいなくなって、次何しようかなって時だったから。アンタラみたいな素人目線で次はオリンピック金メダル目指せとか言われると逆に新鮮だわ。」
「えー?スポーツやってたら普通オリンピック金メダル目指すんじゃないの?」
「男子オリンピックなら昔から格闘技もあったんだけど女子にはなかったんだなこれが。」
「じゃあチャンスだね。」
「え?」
「女子の格闘技がオリンピックで採用されて間もないんでしょ?じゃあボクシング?とかレスリング?とか柔道?とか、他になんかあるのかな?まあ、全部制覇してしまおう!」
ケンが呆れる。
「俺でもわかるぞ、そんなに甘い世界じゃないだろ普通。」
「いや、ケンくん、そうとも言えない。さっき話したようにレスリングは行けそうだ。よく考えたらボクシングも選手人口も少ないし歴史も浅い。その他の競技も専門性の低いものならねじ伏せられるかもしれない。」
「それはそうとお姉ちゃん相当不味そうなモン食うよね。」
「お前プロテインも知らないのか?タンパク質をとるためのパウダーで、スポーツ界では常識だぞ?まあアタシが格闘技マニアなのは自覚してるけど一般人はホント格闘技興味ないんだな。」
「お姉ちゃんはDVDのコピーしてウハウハ言ってるチンパンなんだからそれでいいのよ。アタシはテクノロジーの申し子なの。きっとお母さんは違うんでしょうね。」
「おいケンくん、アンリはなんでこんなに口が悪いんだ?」
「何言っても殴られないと思ってるからじゃないですか?」
「なるほど。」
その瞬間、リサはアンリに飛びかかった。
「許してー!お姉ちゃんー!」
リサは関節が壊れるギリギリのところまでアンリの足首をひねっている。
「これ痛いんだよなー。」
リサは満面の笑みで技を続ける。
「痛いー!痛いー!痛いー!」
ケンは思った。姉妹で喧嘩か、羨ましいな。