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電子の絆(小説)09


モハメドなんとか


リサは2年後のオリンピックのレスリング日本代表及びボクシング日本代表を目指す事をマスコミに伝えた。アンリはリサにこう伝えてあった。傲慢であること。既得権益をもつものを挑発すること。大げさに、観てるものが皆眼を見張るように振る舞うこと。リサは見事に演じた。

「アタシが総合格闘技5階級制覇した無敗の女王早乙女梨沙だ。2年後には世界初のレスリングとボクシング、両方のオリンピック金メダルを同時にとる女になる。」

総合格闘技時代の控え目な立ち居振る舞いとのギャップに世間は驚いた。週刊誌は面白おかしく記事にしていき、地上波テレビでも多少批判的な目で見られつつも注目されていった。リサが48kg級の体で70kg級の選手を倒すシーンは何度もお茶の間に流れ、一般層への知名度も上がっていった。

「ビッグマウスな選手になりたくなかったんだけどなぁ。」

リサは心底嫌そうにしている。

「だってお姉ちゃんって、凄いことしてるのにアタシもケンも知らないくらいの知名度しかなかったじゃん。なんとかかんとかアリってボクサーもビッグマウスだったんじゃないの?」

アンリがテキトウなことを言っている。

「モハメドアリな!アリの名前も知らないのに格闘家をプロデュースする気なのかよ。あのな、ビッグマウスってのはな、注目と同時に悪意も集まるんだぞ。一回負けたら人格まで全否定されて笑い物だ。」

「有言実行って言葉があるのよ。リスキーな分リターンも大きい。お姉ちゃんは日本の若者達の憧れになってもらいたいの。影響力を持って欲しい。その上でその人たちをアタシの手のひらで操るの。」

少し考えてリサは言った。

「アタシ本は読まないけど戦争の歴史くらいは知ってる。アンリ、お前は途方も無い空想家か有能な指導者のどちらかのようなことを言っている。そして民衆はそういうやつに弱い。ブレーキの壊れたアンリのようなやつが描いた脚本通りに演じてみるのも面白いな。」

ケンが言う。

「この国に恨みでもあるのか?」

「ないわ。」

キッパリとアンリが言う。

「お姉ちゃんを英雄にして影響力を持たせる。その後のことはその時考える。」

「リサさん、こいつは金が目当てなんだ。金のためなら自分の国まで売り飛ばすっておかしいんじゃないですか?」

「あら、ケンくんもアンリと一緒に育った孤児でしょ?不思議だね。お金がそんなに嫌い?自分が貧乏なままで自分の国が好景気なら満足なの?」

「そ、それは…。」

「ケンはね、非常に模範的な一般人なんだよ。」

アンリが言う。

「1番最初に水に飛び込む仲間が現れるまで水に飛び込めないでいる群れの中の一匹のペンギン。」

アンリは続ける。

「人はみんな違うんだ。違った上で理解していくことが大事。」

アンリとケンは先日手に入れたお金全てとリサの貯金を合わせてリサのグッズを販売することにした。

「ロゴなんだよなー。」

アンリが頭を抱える。

「インパクトがあって安っぽく無いロゴ。なにかないかなー。」

ケンが言いづらそうに言う。

「あのさ、リサさんのタトゥー、原子力のマーク、やっぱりみんなあれに目が行くと思うんだよね。」

「うーん。」

アンリが言う。

「お寺の地図記号にして一瞬ナチスに勘違いされるっていうのはどうだろう。」

「却下。」


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