リサ・ザ・クレイジークイーン
リサのパンチの連打が敵を襲う。1R40秒でレフェリーが止めた。異例のボクシングデビュー戦が同階級国内チャンピオンというこの試合。リサはオリンピックボクシング日本代表の切符を手に入れた。
「次はレスリングだね。お姉ちゃん。」
「日本は女子レスリング強いからな。気合い入れていくぞ!」
この時点ではマスコミも半分疑問だった。1人の選手が全く違う競技でオリンピック代表になった例は少ない。いくらお互い格闘技というカテゴリーに入っているといっても、将棋の達人がチェスの世界大会では負けてしまうようなもので、同じ種目に割ける時間が圧倒的に違うのだ。
レスリングオリンピック代表選考大会、リサの動向はもはや国内中から注目されており、同一選手によるボクシングレスリングへのオリンピック出場決定の瞬間を見ようと競技場には人が押し寄せた。急遽レスリング協会は競技の観戦を有料にして緩和に努めた。テレビ放送のスポンサーもつき、異例の全国放送が決まった。
競技会での主役はやはりリサだった。
テレビの解説席にゲストとして女子総合格闘家の選手が来ている。
「早乙女梨沙選手がプロ格闘家の道を卒業してしまったのは非常に残念ですね。まだまだ発展途上のジャンルですしね。ですがオリンピック代表、しかも2種目同時となればね、これはもう、国民全員が注目しますよ。女の子でも戦いたいと思ってる全国の少女の道しるべになるでしょうね。」
試合は16人がトーナメント形式で戦う。リサが戦うことに反対するものもいた。女子レスリングは日本のお家芸。最近レスリングの練習始めたばかりのリサにその資格はあるのかという疑問の声もあった。その手の目線をリサは一回戦で豪快に吹き飛ばした。
「強い!早乙女選手!強い!リサ・ザ・クレイジークイーン!去年の日本選手権を制覇した古泉選手に何もさせずに大差で勝利!これはどう見ますか?」
「ええ、やはり早乙女選手はプロ時代70kg級の選手と真っ向勝負できるだけのパワーがありましたし、軽量級特有のスピードとスタミナも持っています。レスリング協会は一回戦で負けさせてこの騒ぎを鎮めようと思って古泉選手と戦わせたのでしょうけど、はっきり言って、早乙女選手は金メダル候補ですね。」
結局どの相手もリサからほぼポイントを取れず、圧倒的な差をつけてリサは優勝した。
「早乙女選手、ボクシングに続きレスリングオリンピック代表決定おめでとうございます。」
「ありがとうございます。ひとつ、いいですか?」
リサはマイクを受け取った。
「テレビの前のみんな、応援ありがとう。アタシが早乙女梨沙です。今度のオリンピックはアタシが面白くするんでよろしくね。最後に一言。」
リサは大声で言い放った。
「アタシがクレイジークイーン、リサだー!」
「ありがとうございました。それでは早乙女梨沙選手にもう一度大きな拍手を。」