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漫画

電子の絆(小説)13


ビッグマウス


「いい?お姉ちゃん。ビッグマウスよ。不言実行なスポーツ選手なんてゴマンといるわ。あえて有言実行。」

「アンリ、日本を没落させてどうのこうのってのはどうなったんだ?」

ひさびさのリサの休日、リサの家でケンとアンリの3人でお茶を飲んでいる。

「そう言われると思ってね、パワーポイントで資料を作ったの。今から説明するわね。」

「その1、内乱を起こします。」

「待てまて、どういうことだ?」

ケンが思わず身を乗り出す。

「だからー、アタシがお姉ちゃんを利用して国家転覆させようと思ったらその際にアタシたちを守る暴力機関が必要でしょ?募るのよ、最強の女の子を守る親衛隊を。武器を持ったら捕まっちゃうからあくまで素手で強い軍隊を作って。」

リサはニヤニヤ聞いている。途方もなさすぎて自分と関係ないと思っているのだ。ケンはあたふたと落ち着かない様子だ。

「その2、内乱のドサクサで臨時政府を作ります。こうなったら諸外国もなんらかのリアクションをとるでしょう。あとは日本もろとも自滅してもらいます。アタシの依頼主が満足するくらい、徹底的に没落してもらいます。お姉ちゃんは危険を感じたらいつでも逃げてください。」

リサが言う。

「お前孤児院と南の島が欲しいんだっけ?いいのか?そこまでスケールのでかい仕事の報酬がその程度で。」

「そう言われてみるとそうね。依頼を受けた時はお姉ちゃんの存在を知らなかったから計画を練る発想も浮かばなかったから言われるがままに受けたけど、これって下手したら億じゃなくて兆の金が動く案件だよね。」

ケンがやじる。

「お前は歴史の授業捨ててるからそんな怖いことが思いつくんだ。」

「何よ!」

「いつの時代も権力というものはその力とともに毒も持っている。うっかり手を出したら毒に触れて死ぬぞ。」

「何よ、ビビってるの?」

「リサさんを利用するのも反対だしお前が権力を持とうとしてるのはもっと反対だ。」

「なんでよ!」

リサがナッツを食べながら言った。

「ケンくんもアンリが好きなんだよ。好きな女が危険なことしてるのが嫌なんだよ。あんたら両思いなんだよ。よかったね、アンリ。」

ケンが焦る。

「いや、あの、はい、まぁ。」

「ケンは昔からそうだよね。アタシが鉄棒で大車輪やっても褒めないで危ないからやめろって騒いでさ。いいじゃない、アタシが危ないことだろうが面白いと思ったことは最後までやっちゃうんだってのは知ってるでしょ?」

「わかってるよ。お前のことは。昔からそうだった。でも俺が最終ラインで止めてたから助かってきたんだぞ?」

「なるほどね。」

リサが口を開く。

「アンリが暴走する、ケンくんがセーブする。お互い譲り合って釣り合いのとれたことをする。そういう理屈で2人は回ってるわけか。さすが幼馴染、上手くできてるね。」

アンリが言う。

「ケンには意気地が無いの。」

ケンがいう。

「アンリには自制心がないんだよ。」

リサがまとめる。

「ふむ、お姉ちゃんとしてはね、アンリが思ってるより単純に考えてるんだな。計画が本当に正しければ全く不満はないのだよ。アタシはね、決められた法則に則って体と心を鍛えて敵を倒す訓練をずっとしてるわけで、法則自体を疑うのはまた違う人の仕事なのだ。」

リサの背中のタトゥーをデザインしたTシャツがちょっとしたブームになっていた。アンリは依頼主も出し抜いて自分の周りだけに利益を産ませる方法を考えていた。もうすぐリサの出場するオリンピックが始まる。


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