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電子の絆(小説)14


オリンピック


オリンピック。まずはボクシング。リサはもともと総合格闘技時代も立ち技で勝負するタイプだった。キックボクシングルールで戦ったこともある。そもそも70kgの相手にも勝てるリサだ。同階級の敵には圧倒的だった。ジャブで距離を取るようなことをせずにブンブン振り回す。リサの名前は海外でも少しずつ知られてきていて世界の人間が注目していた。順調に決勝戦。相手のボディにフルスイングした一撃でKO勝利した。

「アタシが同階級にいたことを恨みな」

リサは心の中でつぶやいた。

「お茶の間の皆さん、金メダルです。早乙女梨沙です。次はレスリングで金とるんで応援お願いします。」

「早乙女選手はこの後レスリングにも出場するんですよ。みなさん、絶対応援してくださいね。」

レポーターとのやりとりを聞いてアンリが苛立つ。

「ダメね。もっとビッグマウスよ。もっと大袈裟に、人を小馬鹿にしないと!」

すると突然リサがレポーターのマイクを奪った。

「いいか!このオリンピックの主役はアタシだ!アタシは戦うカリスマだ!アイム、リサ・ザ・クレイジークイーン!以上!」

リサがマイクをレポーターに返す。ケンがいう。

「これでレスリング、絶対負けられなくなったな。」

夏休みだったケンとアンリの2人はリサの元へ向かった。

「お前ら高校生のくせに金あるんだな。」

「お姉ちゃんがチケットくれないから自腹よ。いくらお父さんに貰ったって言っても所詮5000万よ。」

「アタシがアンタくらいの時は毎日訓練して月の給料10万くらいだったぞ。」

ケンが横から言う。

「ついこの間までは奨学金制度目当てに必死に勉強してたんですよ。高校入ってからもバイトと勉強両立してね。コイツは数少ない奇跡を手にして大金を得たんです。」

「そんなことよりお姉ちゃん、ボクシングの時のマイク、なかなか良かったわ。スポーツ新聞の見出しに、アタシは戦うカリスマだ、って一面で載ってたわよ。」

「お前に色々言えって言われてたこと思い出してさ。ついついオリンピックだと思うと優等生になっちゃうんだよな。ほら、周りがショービジネス格闘技やってる連中じゃないから真面目なんだよ。ついついペースが乱された。ボクシングもさ、ポイント稼ぐアマチュアボクシングばかりでさ、アタシの練習相手の男子プロに比べたら怖くなかったよ。」

「じゃあレスリングもいけるのね」

「わかんない。レスリングはほんと人気種目だからね。一瞬でも気を抜いたら負ける。」

「激戦区の日本代表になれたんだから大丈夫だよ。」

「うん。」

レスリングが始まった。アンリとケンは会場のチケットが手に入らず、会場近くのテレビの観れる飲食店を探して観戦した。リサ効果でレスリング会場は凄い興奮に包まれている。しかしそれは半分応援で、半分は調子に乗ってるやつが負けるところが見たいという心理、ビッグマウスの効果がモロに出ていた。この大会はリサが主人公だった。テレビのニュースのスポーツコーナーは連日リサの特集を組み、スポーツ新聞はリサに紙面をさく。専門雑誌でも毀誉褒貶あるものの格闘技を今後メジャースポーツにするためには、リサのような、かつてのモハメドアリのようなズバ抜けた存在が必要だ、などと口泡とばしてがなりたてていた。

試合はトントン拍子に進んだ。リサが劣勢になることがないのだ。常に攻め続け、時間になると大差でポイント勝ちしてる。「お姉ちゃん、勝てるかな?」

アンリが言う。

「らしくないな、アンリ。お前はいつも自信過剰でこの程度のことじゃ何とも思わないもんだと思ってたよ。」

ケンがいう。

「だって実の姉があんな世界から選ばれた屈強な人たちと戦ってるんだよ?怪我でもしないかと心配で。」

アンリの心配をよそにリサは決勝戦も大差をつけて勝った。

日本のテレビ局が群がる。リサが答える。

「この大会はアタシのためのものだって言ったろ?この先どうするかって?とりあえず、笑っていいともに出るのが小さい頃からの夢だったけど終わっちゃったから、徹子の部屋に出たいね。」アンリのいる店では非難するもの、賛辞をおくるもの半々だ。

「半々でいい。」

このままマスコミに追いかけ回されても消耗しないだけの実績は作った。

「アタシが頑張る番ね。」

アンリはビールをジョッキで飲んだ。


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